薬理学研究室
薬理学研究室について
室長 | 助川 鶴平 (副院長) |
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当薬理学研究室は、精神疾患に対する以下の臨床研究を行っています。
1.統合失調症者に対する薬物療法の適正化
これが当研究室の最重要課題です。統合失調症の薬物療法では、陽性症状・陰性症状・認知障害に対して従来薬と同等の効果があり、副作用の少ない非定型抗精神病薬が世界の治療薬の主流になりつつありますが、日本ではこの普及が遅れています。
これは日本では世界に類のない抗精神病薬の多剤併用大量投与が行われてきたためであると考えらます。従来薬に非定型抗精神病薬を上乗せしても殆ど何の改善も見られません。副作用が増えるだけです。従って、多剤併用大量投与をやめなければなりませんが、急激な減量は再発と離脱症状の出現をもたらすことが多く、多くの精神科医は多剤併用大量投与の改善は困難であると感じています。
また、最近では非定型抗精神病薬の多剤併用大量投与も多くなってきています。このため、日本の多くの統合失調症患者は非定型抗精神病薬の恩恵を受けることが出来ません。
当研究室では厚生労働省研究班の一員として多剤併用大量投与の改善、すなわち、抗精神病薬の減量・単純化の研究に取り組んできました。
この研究の実績
助川鶴平、高田耕吉、坂本泉、土井清、林芳成、池成孝昭、岩田康裕、松島嘉彦、柏木徹。統合失調症における多剤投与の現状。精神科治療学18:779-786, 2003
助川鶴平、坂本宏、金沢耕介、稲垣中、村杉謙次、吉住昭、大島巌、塚田和美、浦田重治郎。抗精神病薬の減量化単純化研究の提案 -多剤大量投与問題の解決に向けて-。厚生労働省精神・神経委託費「統合失調症の治療及びリハビリテーションのガイドライン作成とその実証的研究」総括研究報告書, p37-p43, 2004
助川鶴平、高田耕吉、坂本泉、林芳成、池成孝昭、岩田康裕、土井清、松島嘉彦、柏木徹。慢性統合失調症患者に対する抗精神病薬多剤併用投与の単純化の試み.厚生労働省精神・神経委託費「統合失調症の治療及びリハビリテーションのガイドライン作成とその実証的研究」総括研究報告書, p83-p89, 2004
助川鶴平。多剤大量投与の減量単純化の方法。臨床精神薬理 8: 137-144, 2005
助川鶴平。抗精神病薬の減量・単純化。Review 54:20-23, 2005
助川鶴平。Q58 多剤大量処方になっている場合に減量・単純化する具体的なテクニックを教えて下さい。藤井康男編、統合失調症の薬物療法 100のQ&A, p. 189-191, 星和書店, 東京, 2008
助川鶴平、伊藤寿彦、長谷川恵、他.抗精神病薬の減量単純化。鳥取臨床科学研究会誌 1(1): p. 169-181, 2008
助川鶴平。抗精神病薬の減量単純化のための減量速度一覧表の作成.臨床精神薬理14:511-515、2011.
助川鶴平。抗精神病薬の減量・スイッチングの方法。樋口輝彦、市川宏伸、神庭重信、朝田隆、中込和幸編、今日の精神疾患治療指針、95-96頁.医学書院、東京、2012
助川鶴平。「減量単純化」とは何ですか?また、どのように行うのですか?萱間真美、稲田俊也、稲垣中(編集)、服薬支援とケアプランに活かす非定型抗精神病薬、p166-170、医学書院、東京、2012
助川鶴平。減量単純化の実際と下剤の選択..萱間真美、稲田俊也、稲垣中(編集)、服薬支援とケアプランに活かす非定型抗精神病薬、p171、医学書院、東京、2012
助川鶴平。精神科病院での抗精神病薬の適正化はなぜ困難か?萱間真美、稲田俊也、稲垣中(編集)、服薬支援とケアプランに活かす非定型抗精神病薬、p172-173、医学書院、東京、2012
助川鶴平。抗精神病薬多剤大量投与の是正に向けて.精神神経学雑誌,114:696-701, 2012
助川鶴平。統合失調症~多剤大量投与からの脱却を目指して~.Medicament News, 第2112号:7-8頁、ライフ・サイエンス、東京、2013.
助川鶴平。抗精神病薬の適正化について-減量単純化の試み-.日本臨床、71(4):712-717、2013
Sukegawa, T., Inagaki, A., Yamanouchi, Y. et al.: Study protocol: safety correction of high dose antipsychotic polypharmacy in Japan. BMC psychiatry, 2014, 14:103, The electric version of this article is complete one and can be found online at: https://www.biomedcentral.com/1471-244X/14/103.
Yamanouchi, Y., Sukegawa, T., Inagaki, A. et al.:Evaluation of the individual safe correction of antipsychotic agent polypharmacy in Japanese patients with chronic schizophrenia: validation of safe corrections for antipsychotic polypharmacy and the high-dose method. The International Journal of Neuropsychopharmacology, DOI: https://dx.doi.org/10.1093/ijnp/pyu016 First published online: 11 December 2014
助川鶴平、山之内芳雄、稲垣中、稲田俊也、吉尾隆、吉村玲児、岩田仲生:抗精神病薬使用の適正化について、臨床精神薬理、17: 1353-1359, 2014
助川鶴平。LAIへのスイッチに際して前投薬の望ましい整理の仕方.精神科 27(1):35-40、2015
坂本靖之、助川鶴平、百出卓実、平見明浩、門野恵莉、小谷直江、板野亨、三好浩一郎.鳥取医療センター処方適正化チームにおける抗精神病薬の減量.臨床精神薬理、19:461-470, 2016
助川鶴平、山之内芳雄、稲垣中、稲田俊也、吉尾隆、吉村玲児、岩田仲生:安全な適正化という視点で多剤併用大量投与の問題を考える。臨床精神薬理、19(10)、1463-1469, 2016
2.統合失調症者の予後研究(通称JPSS-2)
新たに発症した統合失調症患者に最善と考えられる薬物療法・心理教育を行い、5年間に渡りその予後を追跡する研究です。これまでの新規発症統合失調症患者に対する予後研究では治療法に対する制限がなく、このことが統合失調症者の予後決定因子を同定する際に大きな障害となっていました。一定の枠のある治療法を行うことで、統合失調症患者の予後を決定する因子が今までの研究と比較してより明らかになる可能性があります。この研究も厚生労働省の研究班の一員として行われているものですが、十数施設が参加する中で全登録患者の約25%が当施設で登録した患者であり、JPSS-2における当研究室の役割は重大であると自負しています。
3.定期的薬剤調査
単なる投与薬の調査ですがこれにより薬剤の副作用などを分析することが出来ます。特に抗精神病薬の多剤併用の弊害などは薬剤調査の分析対象として適当なものです。
この研究の実績
助川鶴平、松島嘉彦、坂本泉、土井清、高田耕吉、林芳成、池成孝昭、岩田康裕、柏木徹.精神科入院患者における下剤大量投与の原因。臨床精神薬理, 8: 329-336, 2005
助川鶴平、岩田康裕、柏木徹.精神科における便秘への対応。日比紀文、吉岡政洋 編
便秘の薬物療法, p85-95, 協和企画, 東京, 2007
助川鶴平、高田耕吉、林芳成、池成孝昭、坂本泉、土井清、柏木徹。 統合失調症入院患者における開放処遇と閉鎖処遇での投与薬剤の特徴. 病院・地域精神医学, 50(2): 180-184,2008
助川鶴平。Q58 抗精神病薬による便秘やイレウスは、どのようなときに生じやすいのでしょうか?またその対処法を教えて下さい.藤井康男編、統合失調症の薬物療法 100のQ&A,p.298-300,星和書店,東京,2008
助川鶴平、土井清、林芳成、池成孝昭、松島嘉彦、坂本泉、高田耕吉、柏木徹、稲垣中、塚田和美。抗精神病薬多剤併用による統合失調症患者生命予後への影響。臨床精神薬理、12:1825-1832,2009 <「臨床精神薬理」2001年優秀論文賞>
Yasuyuki Sakamoto, Tsuruhei Sukegawa, Toru Itano, Akihiro Hirami, Takumi Momode, Eri Kadono, Kouichirou Miyoshi. Differences in the Use of Drugs for the Treatment of Somatic Complications between Psychiatric Out- and Inpatients, Tottori J Clin Res, 7:95-102,2016.
助川鶴平、坂本泉、土井清、柏木徹、坂本靖之.鳥取医療センターにおける精神科入院患者の便秘の研究について.医療, Vol.71(6): 239-244, 2017.
4.その他の業績
Tsuruhei Sukegawa. Consistency between Defined Daily Doses and Chlorpromazine Equivalents. Tottori J Clin Res, 7: 91-94, 2016