言語聴覚療法
言語聴覚療法(ST:Speech-Language-Hearing Therapy)について
言語聴覚療法部門では、病気や事故、加齢などによりミュニケーションの機能が低下した方に対して、言語機能、構音機能、音声機能、嚥下機能などの機能改善や、新たなコミュニケーション方法の獲得などを目的としてアプローチを行っています。又、高次脳機能障害があるケースについても、日常生活や就労・復職に向けて支援を行っています。
外来では、発達遅滞、学習障害、AD/HDなど、発達の過程で生じる、ことばや学習、生活の問題について、ことばの発達を支える訓練に加え、学習を促進するための支援を幼稚園や保育園、学校などと連携し行っています。
スタッフ
主な分野 | 所属人数 |
---|---|
言語聴覚士(ST) | 9名 |
言語聴覚士とは
言語訓練の様子
何らかの原因でコミュニケーションに支障を来すことがありますが、そのコミュニケーションの問題を軽減し、新たなコミュニケーション方法を獲得できるように、指導や訓練を実施するのが言語聴覚士です。
コミュニケーションの問題には、呂律がまわらない(構音障害)、ことばが思い出せない・理解できない・文字が読めない・書けない(失語症)、声が変わった・声が出せない(音声障害)などがあります。
その原因には、脳梗塞や脳出血、交通事故などにともなう脳挫傷などの脳損傷、職業上声を使いすぎるなどの環境問題、生まれつきの発達の問題などさまざまです。生まれつきの発達の問題では、コミュニケーションだけでなく、学校での学習にも支障を来すため、言語聴覚士はその支援も行います。
また、話すことと食べることは、口や舌など同じ体の部位を多く使うため、密接に関わっており、咀嚼や飲み込みが困難となる嚥下(えんげ)障害の指導・訓練も言語聴覚士の仕事です。
対象となるコミュニケーション障害について
当院の言語聴覚士が行うリハビリテーションの対象となる主なコミュニケーションの障害には、「失語症」、「構音障害」、「高次脳機能障害」、「小児の言語障害」などがあげられます。
また、コミュニケーションの障害とは異なりますが、「摂食・嚥下障害」も対象としています。
ここでは、それぞれの障害について、簡単に解説します。
コミュニケーションの障害の解説
【失語症】
失語症は『“語”を失う』と書きますが、頭の中にある“語”つまり「ことば」をうまく操ることができなくなった状態をいいます。脳梗塞や脳出血、脳腫瘍、あるいは頭部外傷などによって脳が損傷することで、相手が話していることが分からない、うまくことばが思い出せない、言い間違いをよくしてしまう、文字を読んでも意味がわからない、字がうまく思い出せないなどの症状がでることがあります。これらの“聴くこと”、“話すこと”、“読むこと”、“書くこと”の4つの「ことば」に関わる能力全てに、何らかの不具合が生じてしまった場合、これを『失語症』といいます。
ひとくちに失語症といっても、その症状は人それぞれです。その人が生活する環境によってもその影響は異なるため、個々に応じた対応が必要となります。
“話ことば”や“書きことば”にこだわらず、その人がより楽にコミュニケーションを図ることができるようサポートします。
【構音障害】
“構音”とは、いいかえると“発音”に近い意味の用語です。つまり、“構音障害”とは何らかの原因によって、“発音”がうまく行えなくなった、いわゆる“呂律がまわらない”状態をいいます。その原因はさまざまなものがありますが、当院で対象となる最も多い構音障害は、脳の損傷によって顔や口、舌など(発声発語器官といいます)にマヒが起こることが原因で生じる『運動障害性構音障害』です。
私たち言語聴覚士は、そのマヒを軽減させる、あるいは“発音”を再獲得するための訓練や話しことばを助けるために、書字や文字盤、パソコンを使うなどの代償手段を指導するなどの対応によって、コミュニケーション能力を高める手助けをします。
その他、子どもが発達の過程の中で、誤った発音を学習してしまう『機能性構音障害』も当院で指導します。
【高次脳機能障害】
とりわけ単純に脳の働きを分類すると、
(1)外界の情報をただ受け取るだけの部分
(2)身体を動かしなさいとただ指令を出すだけの部分、
(3)受け取った情報を処理したり、指令を作ったり、行動を制御したりする部分とに分かれます。
このうち、(3)の「受け取った情報を処理したり、指令を作ったり、行動を制御したりする部分」の働きが“高い次元”ということになります。脳梗塞や脳出血、脳腫瘍に加え、交通事故による頭部外傷などで、この部分に損傷を受けて生じる障害を『高次脳機能障害』といいます。
具体的な症状としては、「少し前の出来事が思い出せない(記憶障害)」、「考えがうまくまとまらず、要領が悪くなる(遂行機能障害)」、「左側のものを見落とす(半側空間無視)」、「マヒはないのに手先が不器用(失行)」、「まとまらない支離滅裂な話し方になる(談話障害)」などさまざまなものがあります。なお、先に述べた『失語症』も高次脳機能障害の一つです。
これらの問題は、日常生活や社会生活(仕事など)への適応に支障をきたすことが多く、私たち言語聴覚士が、作業療法士・理学療法士と連携して支援します。
【小児の言語障害】
ことばが遅い(言語発達遅滞)、発音がはっきりしない(機能性構音障害)、どもる(吃音)など、子どもの発達の過程で生じることばの問題があります。
その他、落ち着きがなく衝動的(注意欠如/多動性障害;AD/HD)、目線が合わない、こだわりが強い、他者とのコミュニケーションが取りにくい(自閉症スペクトラム;ASD)、読み書きが覚えられない、算数が苦手(発達性読み書き障害;Dyslexia、学習障害;LD)など、いわゆる『子どもの高次脳機能障害』もあります。
これらの問題は、ことばやコミュニケーションの問題にとどまらず、学校での学習にも影響し、勉強についていけず、不登校などの二次的な問題を引き起こす可能性もあります。
言語聴覚士は、幼稚園や保育園、学校などと連携し、ことばの発達を支える訓練に加え、学習を促進するための支援を行います。
【摂食・嚥下障害】
“摂食”とは「食物を体内に取り込むこと」をいい、“嚥下”とは「飲み込むこと」を指します。つまり、『摂食・嚥下障害』は、「食物を飲み込んで、体内に取り込むことが難しい」状態といえます。
『摂食・嚥下障害』の原因は種々ありますが、食べるときに使う体の部分の多くが話すときに使われる体の部分と共通であるため、前述の『運動障害性構音障害』と『摂食・嚥下障害』は高い確率で合併します。つまり、マヒが原因で、いわゆる発声発語器官(口や頬、舌など)の動きが障害されると、咀嚼や飲み込みが困難になります。
その場合、飲み込んでも食物が口の中に残る、気管(呼吸をするときに使う管)に入ってムセる(中には食物が気管に入っても全くムセない方もいるため要注意)などの症状がみられます。
その他、“ゴックン”という飲み込みの反射が起こりにくくなって、飲み込めないという症状もあります。
当院では、言語聴覚士がそれらの原因を詳しく評価(※)した上で、咀嚼や飲み込み、ムセた時に気管から食物をしっかりと追い出すための訓練を行うことに加え、どうすれば食べられるかという工夫(食物の形状や食べるときの姿勢を変えるなど)を考えます。
透視室の様子
※ビデオ嚥下造影検査(VF)
当院で言語聴覚士が行う『摂食・嚥下障害』の検査の一つで、レントゲンに映る食物を食べてもらい、その食べ物の動きを観察します。しっかり嚥下ができているかどうかや、どのような工夫をすれば食物が気管に入らず食べられるかを検討することができます。
音響分析について
音響分析は、発声時の声を録音して分析し、声の特徴を数値であらわすものです。
脳梗塞などの脳血管疾患やパーキンソン病などの神経変性疾患によって話し方に問題が生じることがあります。その声を音響分析することで、声の大きさや高さだけではなく、声帯に力が入りやすい・入りにくいといった声帯の動きの異常によって生じる声の特徴を調べることができます。声の成分が数値になって表れるため、耳だけではとらえにくい訓練前後での変化を客観的にみることが可能です。
また発声訓練では、自分の声の大きさや高さをパソコンの画面で確認することができます。今の声より大きく、高くといった目標を、目で見て確認しながら練習できるため、声の出し方を調整しやすくなります。
左図が音響分析の結果です。簡単に説明しますと、緑色の円が標準値を黄緑色の部分が実測値をあらわしています。詳細については、入院時に説明させていただきます。
当院の言語聴覚士におけるその他の活動
【すずめ会】
コミュニケーションの訓練・指導を受けていた方やそのご家族の皆様と共に、野外活動や調理など様々な催しを通して交流したり、コミュニケーション支援の方法などの情報交換を行う場として平成20年1月に発足しました。
現在、年4回の頻度で開催しています(1月、4月、7月、10月)。ご興味のある方は、下記までご連絡下さい。
●【すずめ会】お問い合わせ先
独立行政法人国立病院機構 鳥取医療センター リハビリテーション科内 言語聴覚士まで
TEL.0857-59-0892(内線360)